食分野

水耕栽培とは?栽培方法やメリット、育てられる野菜などを徹底解説

「植物は土がなくても成長できる」ってご存知でしょうか?
実は必要な養分と光さえ与えれば、植物は成長することができます。

その原理を応用した栽培方法が、近年注目されている「水耕栽培」です。
今回は、水耕栽培のメリット・デメリット、水耕栽培で育てた野菜の特徴などを紹介します。
本校での事例や同じく注目されているスマート農業との関係も紹介するので、ぜひご一読ください。

水耕栽培とは


「水耕栽培」とは、土を使わずに水と液体肥料(養液)だけで植物を育てる栽培方法です。
植物の根を養液に浸し、根から必要な水分と養分を吸収させることで、植物を成長させます。野菜はもちろん観葉植物や多肉植物、一部の球根植物も水耕栽培で育てることが可能です。始め方も簡単なので、家庭でも気軽に取り組めることから注目を集めています。

また、ここ数年増加している植物工場では、水耕栽培が主流となっています。生育環境をコントロールしやすく、土を使う「土耕栽培」に比べると病気になりにくいからです。データ活用もしやすいので、作物の生育状況に合った栽培管理も可能。そのため、水耕栽培はロボット技術やICT等の先端技術を活用した「スマート農業」を普及するにあたって、重要な栽培方法の1つとされています。

水耕栽培の歴史


水耕栽培は最近開発された栽培方法と思いきや、実は長い歴史を誇ります。なんと古代エジプトでは、すでに水耕栽培でイネ科の植物を育てていました。しかし、その原理は解明されていませんでした。

時代が進み、1842年にドイツのザックスによって水耕栽培の原理が解明されました。さまざまな養分が溶けた水溶液に植物の根を浸して育てることで、植物の生育に必要な養分を突き止めたのです。

その後、ザックスの後継者が研究を進展させ、1930年代には現在の水耕栽培の元となる技術が確立しました。そして技術がさらに発展し、現在では植物工場などで用いられる重要な栽培方法となっているのです。

水耕栽培のメリット


水耕栽培には、以下のようなメリットがあります。

  • 土づくりが不要
  • 無農薬栽培がしやすい
  • 栽培管理しやすい
  • 狭いスペースでも栽培できる
  • 安定して野菜を生産できる

それぞれについて、詳しく解説します。

土づくりが不要

水耕栽培では土づくりが不要です。土耕栽培では、種まきや移植の前に、堆肥や肥料を組み合わせて土づくりをする必要があります。一方の水耕栽培は、水に液体肥料を溶かして養液を作るだけ。準備が非常に簡単なので、初心者でも気軽に始められます。

無農薬栽培がしやすい

水耕栽培の2つ目のメリットは、無農薬栽培がしやすいことです。土耕栽培では、土の中の有機物が原因で害虫が発生することがあります。また、野菜が土壌由来の病気にかかってしまうこともよくあります。そのため、収穫量を安定させるためには殺虫剤などの農薬が必須です。

一方、水耕栽培では害虫は発生しにくく、土壌由来の病気にかかる心配もありません。それどころか、養液から必要な養分を吸ってグングン成長するため、無農薬でも野菜が作りやすいのです。

栽培管理しやすい

植物工場などの室内で水耕栽培を行なう場合、温度や湿度、養液の濃度などをコントロールできるため、栽培管理がしやすいというメリットがあります。屋外では天候や風の強さなどを気にする必要がありますが、室内で水耕栽培を行う場合、天気などを気にせず栽培できます。

狭いスペースでも栽培できる

水耕栽培の4つ目のメリットは、狭いスペースでも栽培できることです。植物工場などの大規模な施設を想像しがちですが、実はペットボトルやコップなどでも可能です。太陽の光が当たれば室内でも栽培できるので、自宅の窓際で栽培されることもあります。

安定して野菜を生産できる

水耕栽培は病虫害や天候を気にする必要がないため、安定して野菜を生産できます。また、養液の濃度もコントロールできるので、大きさや味を安定させられるのもポイント。均質な野菜を、安定的に大量生産することが可能なのです。

水耕栽培のデメリット


水耕栽培にはデメリットもあります。
以下の3つを紹介します。

  • 電気代がかかる
  • 日照時間の確保がむすかしい
  • 根菜類の栽培が難しい

電気代がかかる

水耕栽培の1つ目のデメリットは、電気代がかかることです。水耕栽培では野菜の生育に適した環境を室内に作るため、気温や湿度の調節、養液の循環ができる設備が必要です。また、野菜の生育には太陽光が必要です。室内では十分な太陽光を得られないため、LEDライトで代用する必要があります。大規模になればなるほど電気代はたくさんかかるので、水耕栽培のデメリットといえるでしょう。

日照時間の確保が難しい

水耕栽培は室内で行うことが想定されているため、日照時間の確保がよく課題に挙がります。美味しい野菜を育てるためには、水と養分に加え、十分な日照時間が必要です。野菜をはじめとする植物は、日光を浴びることで光合成を行い、必要な栄養や酸素を作っています。日照時間が足りないと、味が良くなかったり、栄養価に差が出たりします。

そのため、植物工場などでは、LEDライトなどの人工光源を使って、野菜を生産しています。使われているのは一般的なLEDライトではなく、光合成に使われる光と同じ波長を持つ光を照射しているもの。光量や照射時間を調節しながら、効率よく野菜を生産できるようにしています。

根菜類の栽培は難しい

水耕栽培の3つ目のデメリットは、根菜類の栽培が難しいことです。根菜とは、ニンジンや大根のように、肥大化した根を食べる野菜のことです。ラディッシュ程度の小さな根菜なら栽培できますが、ニンジンや大根ほどのサイズになると、栽培することはできません。根(可食部)が水に浸かったままだと大きくなれず、やがて腐ってしまうからです。そのため、葉物野菜や果菜類の栽培が主流となっているのです。水耕栽培で根菜類を栽培するためには、可食部の肥大化に合わせて水位を下げる必要があるので、かなり手間がかかります。

水耕栽培で育てた野菜の特徴


水耕栽培で育てた野菜には、以下のような特徴があります。

  • 柔らかい
  • 香りがソフトでえぐ味が少ない
  • 調理に使いやすい

それぞれについて詳しく解説します。

柔らかい

1つ目の特徴は、葉が柔らかいことです。土耕栽培の野菜の場合、風雨に晒されているため、傷がつかないように葉が固くなります。一方で、室内で行う水耕栽培は、自然の影響を受けません。そのため、葉を柔らかい状態にしておいても傷がつかず、そのまま生育できるのです。

香りがソフトでえぐ味が少ない

2つ目の特徴は、香りがソフトでえぐ味が少ないことです。野菜は害虫が嫌がる香りを出すことで、自分の身を守ろうとします。これは味も同じで、害虫に食べられないようにえぐ味を出します。そのため、土耕栽培の野菜は独特なクセやえぐ味を持っていることがあります。

一方で、水耕栽培は害虫がほとんどつかないため、強い香りやえぐ味を出す必要がありません。その結果、クセが弱くマイルドな味わいになり、食べやすくなるといわれています。

調理に使いやすい

3つ目の特徴は、調理に使いやすいことです。土耕栽培の野菜は土を落とすためにしっかり洗う必要がありますが、水耕栽培の野菜では土を落とす必要がありません。そのため、調理に使いやすく、非常に衛生的です。

また、野菜は長時間水に浸していると、切った部分がから栄養が流出してしまいます。しかし、洗う必要がない水耕栽培の野菜は、土耕栽培の野菜に比べると栄養の流出が少ないことも特徴。調理する側だけでなく、消費者にもメリットがあるのです。

水耕栽培の方式


ここで、水耕栽培の具体的な方式として、以下の4つを紹介します。

  • DFT方式(湛液型水耕法)
  • NFT方式(薄膜型型水耕法)
  • EZ水耕
  • アクアポニックス

DFT方式(湛液型水耕法)


DFT(Deep Flow Technique)方式は、最もメジャーな水耕栽培の方式です。専用のベッドに養液を溜めて、植物の根の全体、もしくは一部を浸して栽培します。DFT方式のメリットは、栽培に手間がかからないことです。一方で、根が常に水中にあるため、酸素不足によって十分に生育しなかったり、根腐れが起こってしまうおそれがあります。そのため、エアーポンプを使って溶液中に酸素を取り込むことが必要です。

NFT方式(薄膜型水耕法)


NFT(Nutrient Film Technique)方式は、図のように養液の水深を浅くして、傾斜をつけて養液を流し続ける栽培方式です。少ない養液で栽培可能で、根が空気に触れているため、酸素不足の心配をする必要がありません。一方で、停電などでシステムが停止してしまうと養液の循環が止まってしまうため、栽培ができなくなってしまいます。

EZ水耕


EZ水耕は、水田に苗を植えた発泡スチロールのパネルを浮かべて行なう水耕栽培です。肥料は苗を植えた専用の鉢に、固形状のものを予めセットしておきます。すると水田の水で肥料が徐々に溶けだすため肥料を追加する必要がありません。収穫までほとんど手間がかかりません。また、屋外で行うことを想定しているため、ビニールハウスなどの施設は不要。休耕田の活用方法としても期待されています。さらに、水田で稲作を行うより収益性が高く、通常の水耕栽培よりも初期費用が安いといったメリットもあります。

ちなみに、EZは英語の「Easy」の略で、「誰でも簡単にできる」という意味です。水田があれば誰でも取り組めるため、着実に実践者が増えています。

アクアポニックス


アクアポニックスは、水耕栽培と同時に魚の養殖を行う栽培方法です。図のように水耕栽培に使われる水で魚を養殖し、魚の排泄物から得られる養分で野菜を栽培します。魚が出した栄養分が植物に吸収されて水がきれいになるため、水を交換する必要がありません。

ちなみに、仙台医健・スポーツ専門学校でもアクアポニックスに実験的にチャレンジしています。以下の記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。
リンク:SDGs☆循環型農法『水耕栽培×養殖』=「アクアポニックス」

水耕栽培で育てられる主な野菜


現在は水耕栽培の技術が発達し、非常に多くの野菜やハーブ、観葉植物を育てることができるようになりました。今回はその中でも、以下の代表的な野菜を5つ紹介します。

  • レタス
  • ミニトマト
  • バジル
  • カイワレ大根
  • ベビーリーフ

レタス

水耕栽培の代表的な野菜といえばレタスです。植物工場の紹介画像などで、見たことがある人も多いのではないでしょうか?レタスは種まきから収穫までの期間が1ヶ月半から2ヶ月と長め。しかし収穫できる期間が長いため、余裕をもって収穫作業ができます。水耕栽培のレタスは柔らかくえぐ味が少ないので、とても食べやすくなります。

ミニトマト

ミニトマトも、水耕栽培で育つ代表的な野菜の1つです。植物工場だけでなく、一般農家がビニールハウスで行なっていることもあります。本来ミニトマトは、乾燥気味に育てることで甘みが強くなるとされていますが、水耕栽培で適切な養分を与えても、甘みの強いミニトマトを栽培できます。また、土耕栽培に比べて効率よく養分を吸収できるため、収穫量も増加します。

バジル

水耕栽培では、ハーブ類の栽培も可能です。その中でも代表的なものがバジル。生育が非常に早く、1ヶ月ほどで収穫できる大きさまで育ちます。また、収穫のときに切り取った茎を水に浸すと、再び成長するのもポイント。数か月にわたって、何回も収穫できるという特徴があります。

カイワレ大根

カイワレ大根は土耕栽培ではなく、水耕栽培が主流の育て方です。育て方は非常に簡単で、家庭でも気軽に取り組むことができます。収穫までの期間も非常に短く、10日~2週間あれば収穫できます。

ベビーリーフ

ミックスパックとして販売されていることが多いベビーリーフも、水耕栽培で育てることができます。農薬を使わずに育てられるので、安心して食べられる点がメリット。また、苦味やえぐ味が少なく、柔らかく育つため、小さい子どもでも食べやすくなります。

水耕栽培とスマート農業


栽培管理が容易な水耕栽培は、先端技術を活用するスマート農業とも相性が良いとされています。例えば、水温やpH、ECなどをモニタリングすることで、養液を野菜の生育に最適な状態に保つことができます。また、生育状況はPCやスマホで遠隔監視できるため、効率も上がります。最近では、AIを用いて育ちの悪い苗を発見し、生産効率を上げるシステムも開発されました。このように、水耕栽培ではさまざまな技術が開発されており、今後もさらに発展すると予想されます。

※pH:水溶液中の水素イオン濃度を表す指数。
※EC:電気伝導率。培養液や土壌の電気の通しやすさを表す。水に肥料を加えるとECが大きくなる。

水耕栽培の今後


最後に、水耕栽培の今後について紹介します。
(株)グローバルインフォメーションの調査によると、水耕栽培システムの市場規模は、2020年の95億米ドルから、2026年には179億米ドルまで成長すると予測されています。水耕栽培が従来の農業と比較して高収量であるため、世界的な食料需要の増加に対応できると期待されているからです。一方で、高額な初期投資が必要であるため、いち農家が参入するのは厳しいといわれています。そのため、資本力のある企業を中心に参入が続くと予想されています。

まとめ


水耕栽培は栽培管理がしやすく、安定して野菜を生産できる点が魅力です。また、野菜にとって理想的な生育環境を作り出せるので、無農薬栽培も可能。高収量も期待できることから、今後はさらに拡大していくでしょう。

本校でも、水耕栽培で野菜を育てています。以下の記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。また、オンラインオープンキャンパスのときに、水耕栽培施設を紹介したときの動画をYouTubeにアップしています。こちらもぜひご覧ください。

リンク:水耕栽培のご紹介
動画:オンラインオープンキャンパス「校舎見学 水耕栽培 編」学校で食材づくりから学ぶ?!

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