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スマート農業とは?注目される背景やメリット、今後の課題を徹底解説

「スマート農業」という言葉を聞いたことはありますか?「AIやロボットの力を借りて農業をすること」などと、なんとなくイメージを持たれている方もいるかもしれません。実は、スマート農業は現代農業において最も注目されている分野の1つです。これから農業に関わる方は、必ずスマート農業に触れる機会があるといってもいいでしょう。

今回は、そんなスマート農業について解説します。スマート農業の目的やメリット・デメリットに加え、具体的な事例を紹介していきます。農業の明るい未来に関するテーマなので、ぜひ最後まで目を通してくださいね。

スマート農業とは


スマート農業とは、ロボットやAI、ICT(情報通信技術)などの最先端技術を取り入れて、自動化・省力化・高品質化を目指す新しい農業です。スマートフォンやスマートウォッチなど、「スマート〇〇」という先進技術を利用した取り組みは、さまざまな分野で進んでいます。先進技術とはあまり関係がないと思われていた農業においても、ここ数年は多くの先進技術が適用され、スマート農業の動きが急速に拡大しています。

スマート農業が注目される背景


担い手の減少や高齢化の進行、食料自給率の低下など、日本の農業にはさまざまな課題があります。しかし、スマート農業を活用することで、これらの課題の解決につながるといわれています。

なぜなら、これまで人間が担っていた部分を、ロボットやAIが代わりにおこなってくれるからです。

その結果、より少ない人数で、安定した品質の作物を作れるようになります。以上のような理由でスマート農業への注目が高まり、規模の大小を問わず導入が進んでいるのです。

スマート農業の目的

  • 農作業の省力化
  • 技術継承
  • 食料自給率の向上
  • 環境保全
  • 農産物の品質向上

それぞれについて、詳しく解説します。

目的1.農作業の省力化

日本の農業は、高齢化の進行と農業従事者の減少によって、深刻な労働力不足に陥っています。農林水産省によると、日本の基幹的農業従事者は、2011年に200万人を下回り、2021年には130万人まで減少しています。また、2021年の基幹的農業従事者の平均年齢は67.9歳と、過去最高齢となっています。

そんな日本の農業にロボットやセンシング技術などのスマート農業を導入し、作業の自動化・省力化を図ることで、労働力不足を補うことが期待されています。
参考:農業就業者の動向(農林水産省)
農業労働力に関する統計(農林水産省)

目的2.技術継承

新規就農者が経営を軌道に乗せるうえで大きな課題となるのが、技術の習得です。これまでの農業では、技術継承は先輩農家からの口伝でおこなわれてきました。しかし、1人の農家が教えられる範囲には限界があります。感覚的なことも多く、すべてを学ぶには膨大な時間がかかっていました。また、農作業は教えられても、経営に関するノウハウは教えられないということもありました。

しかし、スマート農業を活用すれば、技術の継承も容易になります。具体的には、インターネット上のシステムなどに過去の栽培データ・経営データを蓄積させ、継続的に継承していけるようにするのです。システム上にデータが揃えば全国の農家のデータを参考にできるため、新規就農者にとって心強いサポートとなります。

目的3.食料自給率の向上

2021年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は38%と、先進国のなかで最低の水準となっています。さらに、前述したように労働力も不足しています。このような状況のなかで食料自給率を上げるには、AIやロボット、センサーなどのスマート農業を活用し、少ない労働力で農作物を確実に育てる仕組みが重要です。実際、農作物の生育状況からビニールハウス内の環境を適切に管理する装置も開発されています。

参考:食料自給率って何?日本はどのくらい?(農林水産省)

目的4.環境保全

安定的な生産を確保するために、化学肥料や農薬の使用は不可欠です。しかし、化学肥料や農薬の過剰な使用は、環境に悪影響を与えてしまいます。スマート農業を活用すれば、化学肥料や農薬を最適なタイミングで、最適な量を使用することができます。場合によっては使用量を減らしたり、まったく使わずに栽培することも可能です。今後、環境に配慮した農業を実現するためにスマート農業は欠かせないといっても過言ではありません。

目的5.農産物の品質向上

データを駆使すれば、その農作物にとって最適な環境や状況を把握し、適切な栽培管理ができます。人の手による栽培管理では、大まかな管理はできるものの、細かい調節は難しいのが現状といえます。しかし、スマート農業機器を使えば、作物の生育に合わせた細かい管理が可能です。栽培データと気象や土などの環境データを合わせることで、常に品質の高い農作物を栽培できるようになります。

スマート農業の具体例


スマート農業は、農業の現場でどのように活用されているのでしょうか?
代表的なものとして、以下の4つを紹介します。

  • 無人トラクター・コンバイン・田植え機
  • 農業用ドローン
  • 収穫ロボット
  • センシング技術

無人トラクター・コンバイン・田植え機

最新のトラクター・コンバイン・田植え機は、自動運転によって、人が乗らなくても作業を進めてくれるように設計されています。作業の精度も高く、デコボコした田んぼでも、安定してまっすぐに進んでくれます。

農業用ドローン

さまざまな分野で活躍しているドローンですが、最近では農業分野でも活躍しています。主な用途は以下のとおりです。

  • 農薬や肥料の散布
  • 播種
  • 受粉
  • 獣害対策

今までは農薬散布がメインでしたが、最近ではカメラやセンサーを搭載し、農場の状態を把握することにも活用されています。たとえば、ドローンで撮れた画像から病虫害の発生場所を予測し、ピンポイントで農薬を散布。被害を防ぐと同時に、農薬の使用量も少なくできるため、従来よりコストを抑えた経営が可能になります。

収穫・選別ロボット

収穫や選別も、ロボットの力で自動化・省力化が進んでいます。重量や大きさ、色などで判断するほか、糖度センサーなどを用いた収穫・選別ロボットもあります。

センシング技術

センシング技術とは、農場にセンサーを設置し、離れた場所からでも気温や湿度などの環境データを確認できるようにする技術です。離れた場所にある農場に出向かずとも状況を確認できるため、作業の省力化につながります。また、取得したデータを蓄積して栽培に役立てたり、分析して収穫量を予測することも可能です。

スマート農業のメリット


ここまで述べたように、スマート農業によって今後の農業は大きく変わることが予想されます。それでは、農家にとってスマート農業を導入することのメリットは何なのでしょうか?
具体的には、以下の5つだといわれています。

  • 少人数での作業が可能になる
  • 農作業の負担が軽減される
  • 新規参入がしやすくなる
  • 有機栽培・減農薬栽培が可能になる
  • 業務改善・経営改善ができる

それぞれについて、詳しく解説します。

メリット1.少人数での作業が可能になる

スマート農業を導入することで、作業の省力化・効率化を実現できます。たとえば、ロボットや自動運転の農業機器を使えば、複数の作業を同時におこなえるようになります。人件費も削減でき、従来よりも効率的な経営ができるでしょう。

メリット2.農作業の負担が軽減される

以前は「農業=キツイ」というイメージを持つ人も多くいました。しかし、スマート農業によって、農業のキツイ部分も解消されつつあります。たとえば、危険な作業をロボットが担ってくれると、人がケガをする可能性が低くなります。また、収穫や積み下ろしといった重労働も、アシストスーツを使えば負担を軽減することが可能です。その結果、体力的な問題で農業を諦めていた人も、農業に参入しやすくなるでしょう。

メリット3.新規参入がしやすくなる

システムやインターネット上に栽培データ・経営データを蓄積することで、初心者でも農業に取り組みやすくなります。その結果、新規参入した農家が定着しやすくなります。今までの新規参入者は、長い年月をかけて栽培や経営のノウハウを習得していました。しかし、軌道に乗るまでに時間がかかるため、離農してしまうこともありました。一方で、栽培データ・経営データを誰もが利用できるようにしておけば、新規参入へのハードルが下がります。生育状況に合った栽培データを参考にすることで技術も習得しやすくなり、定着率も上がるでしょう。

メリット4.有機栽培・減農薬栽培が可能になる

センシング技術などで化学肥料・農薬の必要量を把握することで、化学肥料・農薬の使用量を削減、もしくは使わないといったことが可能になります。つまり、SDGsの以下のゴールに該当するといえます。

  1. ・ 気候変動に具体的な対策を
  2. ・ 海の豊かさを守ろう
  3. ・ 緑の豊かさを守ろう


化学肥料や農薬を大量に使えば、多くの収穫が見込めるでしょう。しかし、それは一時的なものです。大量の化学肥料や農薬は農地や河川を汚染し、自然をどんどん破壊していくことになります。適切な使用量を守って、持続可能な農業を確立するためにも、スマート農業は必要不可欠なのです。

メリット5.業務改善・経営改善ができる

スマート農業は一つひとつの作業をデータ化できるため、業務改善や経営改善につながります。たとえば、前述したように農薬や化学肥料の使用量を最小限に抑えられるため、経営コストの削減が可能です。また、データを使うことで、従業員の技術習得もスムーズに進むでしょう。さらに、作業時間などのデータから業務改善をおこなうことで、働きやすい労働環境を整えることもできます。

スマート農業のデメリット


メリットの多いスマート農業ですが、以下のようなデメリットもあります。

  • 初期費用がかかる
  • スマート農業機器を使いこなせる人材を育成する必要がある
  • メーカーごとにスマート農業機器の規格が違う
  • インフラ整備が進んでいない地域がある

それぞれについて、詳しく解説します。

デメリット1.初期費用がかかる

スマート農業の最も大きなデメリットは、多額の初期費用がかかることです。たとえば、事例で紹介した自動運転トラクターの場合、1000万円以上の製品がほとんどです。ドローンやセンシング技術を用いた栽培管理システムも高額なので、購入のハードルは高いのが実情。スマート農業はまだまだ歴史が浅いので、費用対効果の見通しも立てにくいです。

対処法としては、リースでの利用や複数農家での共同購入、各種助成金の利用が挙げられます。なお、現在は多くの企業がスマート農業機器の開発に取り組んでおり、低価格のスマート農業機器の登場が期待されています。

デメリット2.スマート農業機器を使いこなせる人材を育成する必要がある

現場で作業するのはロボットなどのスマート農業機器ですが、それらを指揮するのは人です。高齢の農家では、スマート農業機器をすぐに使える人は少ないでしょう。そのため、スマート農業機器を習得するためのサポート体制や、ITに強い人材の育成が必要とされています。現在では、農業大学校や専門学校、農業高校などで、スマート農業が組み込まれたカリキュラムが提供され始めています。また、学生向けにスマート農業技術のアイデアコンテストが開催されるなど、若い世代がスマート農業に触れる機会が増えつつあります。

デメリット3.メーカーごとにスマート農業機器の規格が違う

現在のスマート農業機器は、メーカーごとに規格が違うものがほとんどです。企業や団体が単独で開発しているため、標準化が進んでいません。そのため、将来的に規模を拡大してスマート農業機器を変えようとしても「互換性がないためデータの移行ができない」ということも考えられます。ただし、少しずつではありますが、規格統一のためのガイドラインが作られつつあります。将来的には、メーカーが異なるスマート農業機器同士でも、データのやり取りができるようになるかもしれません。

デメリット4.インフラ整備が進んでいない地域がある

スマート農業を普及させるには、無線基地局などの情報通信環境の整備が必要です。遠隔操作やデータの送受信で、通信環境が必須になるからです。しかし、スマート農業のためのインフラ整備は、依然として遅れている地域があるのが現状です。インフラ整備には国のサポートが受けられるので、地域ぐるみで積極的に動くことが重要とされています。

日本におけるスマート農業の事例


最後に日本のスマート農業の事例として、以下の3つを紹介します。

  • スマートアグリフードプロジェクト
  • 仙台ターミナルビル株式会社
  • つづく農園

事例1.スマートアグリフードプロジェクト

スマートアグリフードプロジェクトとは、株式会社オプティムが取り組むプロジェクトです。取り扱っているのは、AIやドローンを使って、化学肥料・農薬の使用を抑えて生産された米。残留農薬が不検出であれば「スマート米」として認定を受けられます。そして、株式会社オプティムが生産者価格で全量買い取りし、販売します。基準を満たせば全国どこの農家でもプロジェクトに参加できる仕組みです。現在は東北や九州の農家が中心となり、この栽培方法が進められています。

事例2.仙台ターミナルビル株式会社

仙台ターミナルビル株式会社では、栽培管理システムを導入して、トマトの施設栽培に取り組んでいます。センサーを使ってハウス内の温度や湿度を把握し、トマトにとって最適な状況になるよう調整。遠隔地からもハウス内の環境を把握できるため、省力化にもつながっています。また、栽培データも蓄積されており、誰でも作業に取り組める環境が整いつつあります。

事例3.つづく農園

茨城県のつづく農園では、「ゼロアグリ」という栽培管理システムを導入してイチゴの生産をおこなっています。日射量と土壌水分量から、AIが適切なタイミングで適切な量の潅水・施肥を実施。そのため、水やりの時間が大きく短縮しました。さらに、収量の増加も実現しています。

まとめ


高齢化や担い手不足などの課題を乗り越え、日本の農業がさらに発展するためにも、スマート農業は必要不可欠です。スマート農業はまだまだ可能性に満ちた分野なので、しっかり理解すれば革命的な取り組みを実現することも可能です。

仙台医健・スポーツ専門学校では、スマート農業について学べる「農業テクノロジー科」を設置しています。生産現場での実習やIT・テクノロジー演習を通して、スマート農業に対する理解を深めることができます。また、調理実習や健康・栄養講義によって、生産・加工・販売といった、農産物の一連の流れを学べる点も特長です。食の未来を創造できる人材の育成を目指す本校で学び、ともに農業の未来を考えていきませんか。

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